1/26/2014

Linotype の魅力 (3)

ここでまた、Linotypeの感動ポイントを整理してみる。


  • 活字を拾って配列させる作業を効率化させたいとう需要に対し、金型を並べて1行ごとに活字を鋳造してしまえばいいと発想したところ。
  • ひとつの金型から使い回しのできる鉛の活字を作っていたところに、金型を複数用意して使い回し、鋳造した活字は使い捨てに転換したところ。
  • 1行並べたらすぐに鋳造する仕組みを作ることで、鋳造している最中に次のタイピングができるように効率化したところ。
  • オペレーターがひとりで3つの作業を同時にこなせるようにしたところ。


さて、日本人の私にとってみて、Linotypeにはもうひとつ感動ポイントがある。これだけ世界中の印刷・出版に革命をもたらし、その後80年以上も一線で使われ続けた世紀の発明品が、日本語の組版にはクソの役にも立たなかったというところ。

取り残された日本


1970年代の中旬ごろだったか、今のマリオンの場所にあった朝日新聞に社会科見学に行った記憶がある。当然まだ活版印刷の時代で、輪転機にかける半筒形の鉛の版(ほぼ日刊イトイ新聞のこのページに写真が載ってる)が印象に残っている。活字の組み方も説明してもらったと思う。いくらなんでもその頃にはもうMonotype型の自動鋳植機が使われていたはずが、そんな機械を見た記憶は残ってない。活字の棚がならんでいて、そこから拾っているのを見たような気がするが、それは自動で拾えなかった分を人が補っているところだったのかもしれないし、そもそも記憶が混同しているかもしれない。

Linotypeは基本的にアルファベットを組むための機械だ。大文字(Capital)、小文字(Small)、小さい大文字(Small Caps)、数字・記号類(Punctuations)を合わせて90個の金型:マトリクス(Matrix)が用意されて、90個のキーがそれに1対1で対応する構造になっている。ひとつのマトリックスにはローマンとイタリックの2種類が切り替えて使えるようになっているので、1台で180種類の文字の母型が使える。

日本語の場合、平仮名だけで濁音など入れると80文字以上、片仮名、数字とアルファベット加えるともう間に合わない。漢字に関しては当用漢字で1850字。とても無理。Linotypeのアイディアで、日本語の組版は全く太刀打ち出来ない。逆に言えば、Linotypeの恩恵を、日本の印刷・出版業界はまったく受けることができなかった。

つまり日本の新聞社など、欧米圏の情報伝達のスピードに全くついていくことができてなかったわけだ、1970年代になっても!

MonotypeとLinotype


ところで、Linotypeの市場でのライバルは文字を1文字ずつ鋳造して配列するMonotypeだったが、こちらはLinotypeに比べてちょっと感動レベルが低い。利便性で両者はそれぞれに強みがあって、決して引けをとっているわけでないのだけれど、Linotypeと違ってMonotypeは文字の入力用と出力用とが別々の機械に分かれているところが印象的なマイナス点だ。

機械が2つに分かれているのは合理的ではある。でも、ツールとしてオペレーターとの一体感がない。タイプする人はひたすらキーボードに向かい、文字を鋳造する人は出力された活字を取っていくだけ。2つの機械に介在するのは穿孔紙テープのみで、その紙テープが完成するまでは文字の鋳造作業は進まない。あまり人間味のする機械ではない。

MonotypeはLinotypeから少々遅れて市場に登場したのだが、やはり20世紀になる前の話だ。文字数の多い日本では、このMonotype形式の自動活字鋳植機がなじみ、どうやら1950年ころに実用化されたらしい。半世紀遅れてる。大田区鵜の木にあった小池製作所の和文モノタイプが近年まで動いていた様子がYouTubeにあったが、やはり工場の生産ラインのよう。




小池製作所はMonotype社とクロスライセンスを結んでいたそうで、活版印刷の時代が去ったあとも機械のメインテナンスなどをしていたが、2008年に破産、現在跡地はマンションになっている。

一方、Linotype社は合併やスピンアウトを重ねてハードウェアから手を引いた形で名前を残していたが、同じくハードウェアを切り捨てたかつてのライバルMonotype社の末裔Monotype Imaging社に2006年買収され、今はそのひとつのブランドである。


>Linotype の魅力 (1)
>Linotype の魅力 (2)
>Linotype の魅力 (4)

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