1/08/2012

活字地金彫刻師 清水金之助さんを偲ぶ


昨年末12月26日に、ついこの前の7月に大田文化の森での実演会で、その「技」を披露してくださっていた清水金之助さんが亡くなったとの知らせがtwitter上で流れた。

子どものころから「活字」にはとても興味を持っていて、学生のころにイベントのパンフの制作をしたときなど、和文タイプやら写植レイアウトやらの作業に心躍らせていたような私だったが、「活字地金彫刻師」なんて存在、正直去年7月のこの実演を見て初めて知った。

どんな文字でも、知らない外国の文字ですら、サンプルに描かれているものがあれば頭の中にその反転画像をイメージし、下書きも無しに直接彫ってしまうその技には驚いた。同じ職場の仲間でも、こういう芸当ができる人は多くなかったというのだから、この能力は天から授かったものだったのだろう。しかも、仕事を一旦は引退し、40年ものブランクがあったにもかかわらず、そして89歳という年齢にもかかわらず、この細かい作業をやってのける。目と脳と手先の連動は「見事」という言葉だけではとても足りない。マシンだ、生けるマシンだ!

訃報に接し、ただただ残念。ここに7月の動画を掲載し、ご冥福をお祈りいたします。

↓ 清水金之助さんについて詳しくは
http://kinnosuke.exblog.jp/

ちなみに私の場合、彫刻に際して決して下書きをしなかった清水金之助さんが、本にサインしてくださる際にした下書きを持っているのが自慢。

12/06/2011

放射能汚染土は海洋底に沈めろ

こう書くと「世界につながっている海を汚すなんてゆるせない!」という感情が湧いてくるかもしれないが、まずは落ち着いて欲しい。最近、一部の理学者が真剣にこれを訴えているそうで、できればこの議論が冷静に検討されることを望んでいる。その理由をまとめてみる。

放射能は濃縮して処分するか薄めて環境に放出するか
放射能の危険を回避するには次のふたつの方法しかない。

  • 濃縮して人の生活圏から隔絶して処分する
  • 十分に薄めて環境に放出する
塵として空気中に舞い散ってしまったもの、海に流れだしてしまったものについてはもう拡散して薄まるのを待つよりほかない。一方、せっかく除染や雨により高濃度に濃縮している放射能は、そのまままとめて処分するべきで、再度環境に撒き散らすべきではない。

放射能の無害化は時間しか解決できない
核物理的な手法を取らない限り、どんな化学的、生物学的な方法を用いても放射能は各核種特有の時間を経ないかぎり減ることはない。原発で生成される放射性核種には半減期が数時間、数日のものから数万年のものまである。問題は人間の寿命よりも長い時間を経ないと十分に減ることのない放射性物質の処置だ。人の寿命どころか、社会の寿命や歴史の長さにも匹敵する半減期のものもある。
こうした放射能を長期間にわたり、人間の生活圏から隔絶させておかなくてはならない。 しかし、自分の曽祖父の名前の記憶すらおぼつかない人間が、その手の届く範疇に危険物を管理し続けることができるのか。

陸地で処分をするのは危険である
人間よりも長い寿命の放射能を、人間の手の届くところに残しておくことは、将来的に忘却され放射能に最遭遇してしまう危険性をはらんでいる。管理するにしろ、負担するコストが割りに合わない。また、日本のようにプレート境界に位置した活動の激しい場所に限らず、地表は様々な地学現象に晒されているところで、保管場所が自然災害からの影響を受ける危険性が高い。それは地中といえども同様だ。被災と同時に、放射能が人間の生活圏に戻ってきてしまうことが想定できる。

地球上で最も安定な場所が海洋底
人間の生活圏から遠く、地球上でいちばん安定している場所が太平洋などの海洋底だ。もちろん、海洋底でも地球の活動はある。例えば中央海嶺やハワイのようなホットスポットでは地下からマグマが絶えず湧き上がっているし、海溝部分では大地震も起きる。しかし、海洋底の大部分は、陸地や海の上層ほどの激しい活動はない。
海嶺で誕生した海洋底は、海溝で再び地下に沈み込むまで、数千万年から1〜2億年ものあいだ、年にせいぜい5cmほど移動するだけで、ほとんど何も起きない。 太陽光の届かない海底では、目立つ生物もろくにいない。また、大洋の真ん中では餌となるプランクトンの死骸すらもきわめて少ない。陸地の侵食でもたらされる泥の堆積すらないのだ。 海洋底では非常にゆっくりとした時間が流れている。まさに時間しか解決できない放射能を始末する場所として相応しい。

水の循環も問題ない
しかし、海水に放射能が漏れ出したら結果的に海洋汚染になるのではないかという疑念があるだろう。ところが、海洋底の水はそう短期間には循環していないのだ。 海の上層の水は太陽光や風の影響を受けて盛んに動いている。だが、海洋底の水はその影響受けず、もっと時間的、距離的スケールの大きな循環をしている。
極地で冷やされた水は重たくなり、ゆっくりと海底に沈んでいき、大洋にひろがっていく。この冷えた水は熱源がないため冷えて重たいまま上昇することがない。この水を移動させるのは、新たに生成される冷たい水の押す力くらいなので表層海流のダイナミックさに比べると、やはり時間的スケールが違う。 よって、少々の放射能漏れが生じたとしても、海産物などを通じて人間の生活圏に戻ってくることはほぼない。


陸地で起こる地殻変動や火山、洪水、地すべり、土砂崩れなど、自然災害の周期は数十年とか数百年というサイクルだ。これに比べて海洋底の様々な活動周期は、放射能処理に必要な時間を満足するに十分だ。それに海洋底は過酷な環境であるがゆえに人間の生活圏はおろか、多くの生物の生活圏からも隔絶している。

以上、どう考えても海洋底以外に放射能汚染土を処分するにふさわしい場所は思い当たらない。使用済み燃料すら、海洋底に処分した方がいいように思える。まぁ、それは原発をやめるという前提の話で、そもそも核使用済み燃料っていうのは出してはいけないゴミなので、海洋底にいくらでも捨てられるから原発続けていいということにはぜんぜんならないけどね。

11/28/2011

猫間川に内川を重ねあわせて読んだ

椋氏( @Mukunokiy )の 「猫間川をさがせ」を読んだ。Amazonで売ってないなぁと思ったら、これもともと電子ブックだったのね。

大阪の地理についてはまったく頭に入っていないので、いろいろな地名や交差点の名前など、位置関係がぜんぜん思い浮かばないままに読んで、あとでGoogle Mapを見たりした。かろうじて行ったことのある場所は「鶴橋」くらい。それでも街の中に暗渠となってすっかり人々の記憶から消えてしまった「猫間川」に、うちの近くを流れていた「内川」を重ねあわせながら読んだ。


わたしたちが子供だった1970年代、川はドブだった。わたしの父の世代、昭和初期を過ごした人たちは、きれいなせせらぎだった川がドブへと変貌していくのを目の当たりにしている。でも、わたしの世代にとっては、川は最初から汚くて臭いドブだった。内川も呑川も、多摩川でさえドブだったので、川というのは生活上はなるべく近づきたくない場所だった。

内川が暗渠化されることになったのはまさに「臭いものに蓋」、歓迎すべきことだったし、川筋はきれいに整備されて今や古木の立ち並ぶ桜並木だ。川があったことすら知らない人たちが住みつき、そこらじゅうから湧いていた水も枯れてしまった。呑川や多摩川がかなり水質改善した現状をみると、中国の事故隠しよろしく川を土の中に埋めてしまったのは間違った選択だったようにも感じる。

しかし、ドブになる前も、川は昔から人の生活の都合で流路を変えられてきたのだ。

かつて、馬込の谷あいは豊富な湧水があり、そこそこの水量の流れがあったようだが低地の高低差は非常に少ない。崖から流れでた水は一筋の流れとはならず、地下鉄車庫のある道々女木〜梅田のあたりや、今立正大学の工事をやっているあたりからオートバックスや東急ストアのあたりは広大な湿地になってたようだ。多くの住民も知らないそんな土地の記憶が、先の大地震で液状化という形で蘇ってくるのは、不謹慎ながら面白いことだ。

Google Mapで馬込のあたりを見ると、大地と低地がくっきりとわかれていたせいか、道の配置や家の並びが地形にそっているので、かつての川筋がどのようなものであったのかはおおよそ見当がつく。だが、低地のどの部分に蛇行した川の本流があったのかはわからない。川をまっすぐに護岸したあと、低地は整然と区画されてしまったからだ。

「猫間川をさがせ」を読んでからGoogle Mapで大阪の街を見たが、猫間川の流路はまったく見えて来なかった。それは大阪が馬込とちがって起伏のない全面的な低地だったからだろう。それに大阪は馬込とは比べるまでもなく、大昔から人の手の入ってきた土地だ。低地の川は簡単に流路を変更され、溢れるといって掘り下げられ、ドブ川化したときには容赦なく蓋がされた。川に蓋をするように、土地のいにしえの姿も想像ができないように埋め尽くしてしまったようだ。事故を起こした高速鉄道をその場に埋めてしまうがごとく。

11/12/2011

「Steve Jobs」を読んだ

まぁ、先週には読み終えてたんだけど。Apple復帰までのいろんなエピソードはこれまでにも本になったりしてたので、知っていることも多かった。だけど、この10年のApple躍進の背景については興味深い内容だった。

特に、Appleの製品やサービスすべてがSteve Jobsの意向どおりに展開したわけではなかったという点はちょっとびっくりした。たとえば、Windows用のiTunesはJobsの考えとは全く逆の方針でリリースされてたんだ。iPhoneはiPodが携帯電話に市場を奪われるかもしれないという強迫観念から開発された。App Storeも彼の発案ではない。iPhone 4のアンテナ問題も、堂々とした会見の裏側の様子はちょっと違う。

製品発表会のステージ上で、「すばらしいだろ!」と言っている裏では、必ずしも全面的に開発方針に同意していたわけではなかったのか、と思うと面白い。


10/15/2011

関東ローム層は富士山の火山灰じゃないんだって

でも学校ではそう習わなかった? 実験で関東ローム層の赤土を水で洗うと、小さな輝石という鉱物結晶とかが出てきて、それが富士山由来だという証拠だって。高校の地学で習った。

でも、火山灰がつもると凝灰岩のようなものになるんじゃないの?、とか、なんでこんなに均一な粘土状に堆積してるの?、とか疑問に思っていた。

そうしたら、最近「フクシマサベツ」のツイッター発言でやや注目を集めてる...  うん、それは失礼だな。放射能の「早川マップ」で評判を集めている、火山地質学者の早川由紀夫先生が「関東ローム層は火山灰堆積物じゃない」とツイートされてたので、その解説を拝見した。なんと、あの分厚い堆積物は、毎年春先の強風で飛んでくるチリが積もったものだというのだ。

確かに、春の風の強い日に窓を開けておくと部屋がザラザラになる。こんな、1年に0.1ミリというわずかな堆積の数万年にわたる集積結果が関東ローム層なのだそうだ。

チリが堆積する場所にはもちろん腐葉土のような黒っぽい表土があり、草木も生えている。だが、これらは分解してしまうと赤い粘土状の土しか残らないらしい。だから黒い土の下の方では今でもローム層が着々と厚みを増しているということになる。こうしたゆっくりとした堆積の結果、あのように塊状(マッシブ)のものができあがるのだそうで、逆に火山灰だったとしたら、何らかの総理構造があるはずなんだとか。

なるほどね。納得。

http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/volcanology/c6.html

Steve Jobsについて書いてみようかな

もう、CEO辞任のニュースが出てから「ダメそうなんだな」という認識はあったけど、やっぱり死んじゃったか。なんというか、好きなアーティストがいなくなって、もう次の作品は見られないんだなというような、さびしい気分。「悲しい」というのとは違うけど、なんか将来に対しての喪失感みたいなもの、そんなものを漠然と感じる。特に、自分の愛用品の行く末については不安感がちょっと漂う。

最初にコンピューターに触れたのは大学時代だったけど、当時は大学の情報処理センターに出向いて、授業でならったコマンドとプログラムを入力するって付き合い方だった。大学3年生のころには、バイトでNECのPC-9801ってパソコンに「松」っていうワープロと、何ていったかな?名前憶えてないんだけどカード型のデータベース・ソフトをフロッピーで立ち上げて使った。ちょっと興味をもってパソコンのカタログとか見たけど、値段見て「これはパーソナルじゃない」って思ったもんだ。同じアパートに住んでた友達がPC-8801だかを持ってたんだけど、そいつにはフロッピー・ドライブすらついてなくて、電源切ればプログラムもデータもなにもかも消えるという、超高級プログラマブル電卓みたいなもんだった。

これが1984年くらいの話だから、使ってたパソコンはみんなApple IIの成功に触発されて開発されたものだったし、AppleではすでにMacintoshがデビューしてたころなんだな。もう、そこからSteve Jobsからの影響は受け始めてたわけだ。

就職した1986年当時、コンピューター通信の会社の技術部だったのに課に1台もパソコンがないという部署に配属され、となりの課の先輩社員に教えてもらったのがTRONプロジェクトだった。で、その坂村健先生の書いた本で初めてMacintoshを知った。このときすでにSteveはAppleに居ない。そして、実際にMacintoshを初めて触ったのは翌年、課に初めてパソコンを導入するという際に稟議書を書くために後輩にパソコンの比較資料を作らせた直後だった。「なんだかMacintoshって恐ろしく何でもできますよ!」との後輩の言葉を聞いて、Canon Zero One Shopにデモを見に行った時だ。一発でその魅力にはまった。

それでも当時のパソコンはぜんぜんパーソナルな値段ではなかったので、購入までには半年ぐらい、あれこれ悩んだなぁ。まぁ、それ以来25年以上、Macユーザーなんだからすごく長い付き合いだ。正直、System 7 + PowerPCの時代、Macはやたら使いにくくなっていったので、仕事ではWindows 2000を使ってた時期がある。でも、OS Xが安定してから、また仕事もMacに戻した。今も一番使いやすい生産性の高いツールになってる。


Steve Jobsはアイディアや技術をエレガントに結びつける「触媒」であったのだなぁ、と思う。そして成果物の上手な説明者でもあった。パソコン業界はこの30年ほど、Steve JobsとBill Gatesという性格的は問題のあるふたりに牽引されて発展してきた。両者ともに偏屈に自分を押し通すような強烈な個性の持ち主だが、Billが自らもプログラマーであったのとは対照的に、Steveは純粋に「触媒」としての役割りを果たしてきたように見える。

コンピューター・オタクの技術は彼に触れてApple IIという実を結んだ。Apple IIがあったので表計算ソフトが誕生した。PARCで最先端研究していた連中とコンピューター・オタクが引き合わされてMacintoshが誕生した。MacのおかげでDTPが開花した。MIでのマイクロカーネルの研究はNextによって陽の目をみることになり、NextStepというオブジェクト志向環境があったからこそ、Berners-LeeはWWWのアイディアを簡単に構築できた。「触媒」としては極めて様々な重要な化学反応を起こしていながら、成果物はいつも他の人の手の中だ。

Steve JobsがAppleから離れている間に、NextとPixerという2つの会社の代表になっていたけど、どっちも経営はふらふらの状態だった。実際にはPixerはSteveが作った会社ではないので、Nextが彼のアイデンティティだったはず。そしてNextの開発したコンピューターとOS上でWWWとHTTPは開発され、ユーザー・インターフェースはWindows 95に模倣されるなどのインパクトは与えつつ、商業的な成功を手中にはしていない。PixerがToy Storyで商業的にようやく成功したのは、彼の実績ではない。つまりそれまでSteve Jobsがビジネス的に成功したのはApple IIだけだった。

Steve JobsはAppleに戻ってからようやく触媒が誘発した化学反応の成果を自ら受け取れるようになったが、Appleに戻れたのはGil Amellioのおかげだ。今振り返ってみると、本当によくできたドラマだ。

7/25/2011

LionでTiger ServerのAFPにつながらない

難しい。MacBook ProをLionにしたら、Tiger ServerのAFP(ファイルサーバー)へのログインができなくなった。Snow Leopardからは問題なく接続できるのに。AFPといえばAppleのプロトコルなのになぜ?

そんなわけでちょっと調べてみたところ、LionではAFPの認証(uam)にDHX2という手順を使うようにして、古いDHCAST128という手順をデフォルトで無効にしたのだそうだ。これによって、たとえばLinux上でnetatalkを動かしてファイルサーバーにしている場合にもLionからログインできなくなったらしい。

サーバー側がDHX2に対応すればクライアント側では何もする必要がない。netatalkでもDHX2を導入するためのパッチだかアドオンが出ているようだ。LeopardやSnow Leopardもサーバー側でDHX2を持っているらしい。Tiger側でDHX2を有効化できるならば、クライアント側はいじる必要がないのでそれが一番いい。しかし、Tigerについてはちょっと情報が得られなかった。

Appleのサポートでは、Lion Serverに関するドキュメントに記述があり、サーバー側でDHCAST128を有効にする方法とクライアント側でDHCAST128を有効にする方法が解説されている。それによれば、/Library/Preferences/com.apple.AppleShareClient.plist で定義をしてやれば良いようだ。確認してみると、Tigerには当該ファイル(ドメインというのか?)が存在していない。つまり、Tiger側では認証方式を設定する手立てがないということだ。ということは、クライアントのLion側でDHCAST128を有効化するしかない。

まず、Lionの/Library/Preferences を誰でも書き込めるようにパーミッションを変更する。

$sudo chmod o+w /Library/Preferences

次に、com.apple.AppleShareClient.plist に「無効化する認証方式」の宣言を書き込む。DHCAST128はこの宣言がないとデフォルトで「無効」になっているが、宣言をして「無効」から除外するということだ。

$sudo defaults write /Library/Preferences/com.apple.AppleShareClient  afp_disabled_uams -array "Cleartxt Passwrd" "MS2.0" "2-Way Randnum  exchange"

これで、宣言した3つの方式以外が「有効」になるはずだ。Lionをリブートして、Tiger ServerのAFPに接続ができた。

ちなみに、DHCAST128を無効にするときには、

sudo defaults write /Library/Preferences/com.apple.AppleShareClient afp_disabled_uams -array-add “DHCAST128″

として宣言に追加すればよいようだ。