もう、CEO辞任のニュースが出てから「ダメそうなんだな」という認識はあったけど、やっぱり死んじゃったか。なんというか、好きなアーティストがいなくなって、もう次の作品は見られないんだなというような、さびしい気分。「悲しい」というのとは違うけど、なんか将来に対しての喪失感みたいなもの、そんなものを漠然と感じる。特に、自分の愛用品の行く末については不安感がちょっと漂う。
最初にコンピューターに触れたのは大学時代だったけど、当時は大学の情報処理センターに出向いて、授業でならったコマンドとプログラムを入力するって付き合い方だった。大学3年生のころには、バイトでNECのPC-9801ってパソコンに「松」っていうワープロと、何ていったかな?名前憶えてないんだけどカード型のデータベース・ソフトをフロッピーで立ち上げて使った。ちょっと興味をもってパソコンのカタログとか見たけど、値段見て「これはパーソナルじゃない」って思ったもんだ。同じアパートに住んでた友達がPC-8801だかを持ってたんだけど、そいつにはフロッピー・ドライブすらついてなくて、電源切ればプログラムもデータもなにもかも消えるという、超高級プログラマブル電卓みたいなもんだった。
これが1984年くらいの話だから、使ってたパソコンはみんなApple IIの成功に触発されて開発されたものだったし、AppleではすでにMacintoshがデビューしてたころなんだな。もう、そこからSteve Jobsからの影響は受け始めてたわけだ。
就職した1986年当時、コンピューター通信の会社の技術部だったのに課に1台もパソコンがないという部署に配属され、となりの課の先輩社員に教えてもらったのがTRONプロジェクトだった。で、その坂村健先生の書いた本で初めてMacintoshを知った。このときすでにSteveはAppleに居ない。そして、実際にMacintoshを初めて触ったのは翌年、課に初めてパソコンを導入するという際に稟議書を書くために後輩にパソコンの比較資料を作らせた直後だった。「なんだかMacintoshって恐ろしく何でもできますよ!」との後輩の言葉を聞いて、Canon Zero One Shopにデモを見に行った時だ。一発でその魅力にはまった。
それでも当時のパソコンはぜんぜんパーソナルな値段ではなかったので、購入までには半年ぐらい、あれこれ悩んだなぁ。まぁ、それ以来25年以上、Macユーザーなんだからすごく長い付き合いだ。正直、System 7 + PowerPCの時代、Macはやたら使いにくくなっていったので、仕事ではWindows 2000を使ってた時期がある。でも、OS Xが安定してから、また仕事もMacに戻した。今も一番使いやすい生産性の高いツールになってる。
Steve Jobsはアイディアや技術をエレガントに結びつける「触媒」であったのだなぁ、と思う。そして成果物の上手な説明者でもあった。パソコン業界はこの30年ほど、Steve JobsとBill Gatesという性格的は問題のあるふたりに牽引されて発展してきた。両者ともに偏屈に自分を押し通すような強烈な個性の持ち主だが、Billが自らもプログラマーであったのとは対照的に、Steveは純粋に「触媒」としての役割りを果たしてきたように見える。
コンピューター・オタクの技術は彼に触れてApple IIという実を結んだ。Apple IIがあったので表計算ソフトが誕生した。PARCで最先端研究していた連中とコンピューター・オタクが引き合わされてMacintoshが誕生した。MacのおかげでDTPが開花した。MIでのマイクロカーネルの研究はNextによって陽の目をみることになり、NextStepというオブジェクト志向環境があったからこそ、Berners-LeeはWWWのアイディアを簡単に構築できた。「触媒」としては極めて様々な重要な化学反応を起こしていながら、成果物はいつも他の人の手の中だ。
Steve JobsがAppleから離れている間に、NextとPixerという2つの会社の代表になっていたけど、どっちも経営はふらふらの状態だった。実際にはPixerはSteveが作った会社ではないので、Nextが彼のアイデンティティだったはず。そしてNextの開発したコンピューターとOS上でWWWとHTTPは開発され、ユーザー・インターフェースはWindows 95に模倣されるなどのインパクトは与えつつ、商業的な成功を手中にはしていない。PixerがToy Storyで商業的にようやく成功したのは、彼の実績ではない。つまりそれまでSteve Jobsがビジネス的に成功したのはApple IIだけだった。
Steve JobsはAppleに戻ってからようやく触媒が誘発した化学反応の成果を自ら受け取れるようになったが、Appleに戻れたのはGil Amellioのおかげだ。今振り返ってみると、本当によくできたドラマだ。
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