このところ、続けざまに自伝書みたいな本を読んだ。まぁ、徳田虎雄の本は「自伝」ではないけど、一代記みたいな内容。
Pete Townshendの自伝「フー・アイ・アム」は紛れもない自伝で、「Tommy」で成功をつかむまでの話や「Live At Leeds」制作の裏話など、なかなか面白い要素があった。だが、よくもまぁこれほど長々と自分のことを語るもんだな、って言うほどに人生を網羅しきっていて、正直疲れた。もともとインタビューとかでもベラベラとよく喋る人だけどね。謝辞とあとがきだけで10ページもありやがって。ファンだから我慢して読んだけどさ。
今日読み終えたのは、書体デザイナー「小塚昌彦」の自伝。自伝だと思う。内容的には自伝なのか、活字の歴史書なのか、フォント・デザインのコンセプト書なのか、あやふやな感じ。それでも、新聞が活版印刷だったころに毎日新聞に入社して、新聞用の活字のデザインを担った人なので、その後の印刷の進化、鉛の活字から写真植字、そして現在のデジタル・タイポグラフィーに至る流れを最先端で体験、いや体現してきた人の履歴、およびその仕事内容の解説なのだからちょっと興味深い。
最初の方は主に活版印刷に関すること。ここでは文字は鋳物として製造されるもので、種字のデザインから彫り出し、鋳造のための機械や記述など、専門家でなければなかなかイメージ出来ないような内容が描かれている。一般にはなじみのない活字鋳造の仕組みなどは、もう少し図入りで解説があってくれればよかったのにと思う。
中盤は写真植字のための文字デザインの話。この時代、労働集約的な工場の仕事だった印刷は一気にハイテク化してくる。種字は大きさごとに彫り出す必要がなくなり、活字を鋳造したり拾ったりする人たちも必要がなくなる。文字はデザインがよりフォーカスされてくるようになり、文字種へのニーズが高まる。
後半はDTPの時代の話。印刷もオフセットが主流となり、割り付けも校正も画面の上でできるようになる。横書きへのニーズも高まり、文字種量産の時代へと突入し、効率的なフォント・ファミリーの生産が求められる一方、どんどんと労働者の需要は減っていったのだ。
この本には印刷に関する産業的な側面はほとんど語られていない。ただ、感じられるのは、活字の技術が加速度的に進化する中で、先端を歩んできた小塚氏の周辺から、人の気配がどんどんと減っていくことだ。
かつて、新聞紙面を刷り上げるまでには、活字を組むところまでだけでもたくさんの人手を介していた。新しい文字種をひとつデザインしようものなら、たいへんな人員を数年にわたり動員させなくてはならないことになる。現在、小塚氏の周りには数人のデザイナーと十数人の作業員が仕事を分かち合っている。将来は、ひとりのタイポグラファーとコンピューター1台だけで、日本語の数千文字のフォントはどんどんと多品種量産されていくんだろう。
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