12/31/2016

2016年は三味線三昧だった

総括を先に言えば、年頭に始めたことが、年末にDVDというひとつの作品に結実、まさにリア充の1年であった。

昨年末、浅草の料亭で芸者遊び体験してから、「これはやはり三味線弾けるようになりたい」と思い、オークションで3500円で中古の長竿三味線を落札。破けた革を、大森の石村屋さんというタバコ屋にしか見えない三味線屋で4万円(!)かけて修理した。

私なんかは、三味線はじめようにもいきなりどこぞのお師匠さんの門をたたくなんてハードルの高いことはできず、ギターの延長でちょこっと小唄なんぞが弾けるようになりたい程度の気持ちだ。Amazonで教則本も買ってみたけど、やはり基礎はちゃんと教わらないとどうにもならない。「大田区 三味線 稽古 教室」などのキーワードでネット検索しても、あまりヒットするものがない。(このあたりの事情については多々思うところがあるので、また別の機会に書こうかな。)

さて、タバコ屋にしか見えない三味線石村屋のご主人は「多くの子どもたちに三味線に触れる機会をつくっていきたい」と、大田区の子供向けイベントに参加した区内の小中学生をさそって、月2回の三味線教室をひらいている。短期的にまったく商売にならないのに、一生懸命文化貢献をなさっている奇特な方である。これ幸いということで、その三味線教室にまぜていただくことにした。

2月から月2回のペースで小中学生の諸先輩にまざってお稽古をしてきたのだが、自分流で長年やってるギターとはまったく勝手が違う。用語も違う。たとえば、ギターは下から1弦、2弦、3弦...というが、三味線は逆で上から1の糸、2の糸、3の糸という。そもそも「弦」と言わない。糸を押さえる指の上がる下がるも逆の意味になる(低い音の方に指を移動するのが「上がる」)。同じ弦楽器でこうも違うのか。こんなところからまず戸惑う。

教えてくださったのは、民謡三味線の藤本流師範、秀三輪先生。南大井でたくさんのお弟子さんを持つ一流の方である。大森山王には石村屋さんの依頼で出張で教えにきてくださってる。三味線の持ち方構え方をレクチャーされるや、いきなり「黒田節」を弾いてみろという。見よう見まねで弾いてみると「おお、できたできた、うまいうまい」とおっしゃる。褒め上手だ。本当は全然できてない。

秀三輪先生の社中では何年かごとにホールにお客を招いての発表会をしているそうで、ちょうど今年の10月に、大井町きゅりあん小ホールで5年ぶりの発表会が予定されていた。始めて半年、ようやく数曲弾けるようになった段階で、私もそのステージに紛れ込ませていただけるということになった。へたっぴのくせにずうずうしい。

音楽・映像分野には少々経験があるので、記録係も買って出て本番を迎えることとなった。とにかく民謡とか三味線とかの世界はまったくわからず、シキタリも知らない中、53歳にして色々と新鮮な体験をさせてもらった。

発表会後の2ヶ月は、撮影した映像と録音を編集してDVDに仕上げる作業に没頭することとなった。なんとかクリスマスの日にリリースが間に合い、実費4800円で販売した。手前味噌だが出来栄えはかなりいいと思う。少なくとも、秀三輪社中過去最高のライブ記録に仕上がったはずだ。DVD-Rじゃなくて、ちゃんと工場でプレスした本格的なDVD。コンテンツの合計3時間におよぶ音楽ライブ作品のポスプロは私も初めてだったので、納品されるまでは心が休まらなかった。今、大晦日を迎えた段階でへとへとだ。

そんなこんなの三味線三昧。でも、ま、2016年はトータルでいい1年だったよ。

12/30/2016

"KB2267602"でWindows Updateが止まる

いろいろ奇怪である、Windows10になってもあいかわらず。

年末になると年賀状のために筆王を使うため、おおよそ普段使ってないWindowsを起動する。普段使ってないと蓄積しているのがアップデート。これにしばらく時間を使うのも毎度のことなんで、そこは慣れっこなんだが、こういう時にエラーが発覚するのも困ったものだ。

なんと10月以来立ち上げてなかったんでさぞかしアップデートに時間がかかるだろうと思っていたら、なんと何もインストールされない。シャットダウン時におなじみの「電源をきらないで...」ってメッセージもなし。で、コントロールパネルからWindows Updateのステータスを確認したら、「更新プログラムを利用できます」「更新プログラムをダウンロードしてます。0%」と出て何も動いている様子がない。なんか、たまにちらほらと、「Windows Defender」だの「KB2267602」だのって表示が出るだけ。

普通、すべて自動更新が上手くいっていたなら表示されているはずの「更新プログラムのチェック」ボタンすら現れない。10月にアップデートして以来立ち上げてなかったのだから、アップデートが何もないはずはない。「最新の更新プログラムに関する情報をお探しですか? → 詳細情報」からたどったMSのサイトでもいくつかあるのを確認した。

そこで、リストされた中から最新バージョンのアップデータをダウンロードして累積的アップデートを手動で実施した。(記事中のリンクをたどると、「Microsoft Updateカタログ」ってサイトからインストーラーがダウンロードできる。)

とりあえず、Windows10は最新になったようだが、まだ「KB2267602」のエラーは残っているようだ。

調べて行き着いたのがこちらの記事:http://kalikan.hateblo.jp/entry/2015/11/28/233000

記事を参考に、コントロールパネルの「ネットワークとインターネット」→「状態」→「Windowsファイアウォール」と進み、「既定値に戻す」を実行してみると、どうやら問題は解消。

7/19/2016

またも強敵!

都知事選の話ではなくて、ウチの庭にやってくる敵のこと。やぶ蚊をデミリンで撃退したのもつかの間、今年もこいつがやってきた。ホオズキカメムシ。育ってきた唐辛子や朝顔に群れでたかって茎から汁を吸いやがる。 

もともと、春先からアブラムシ対策にオルトランを撒いたりしてきたのだが、それをものともせずにこのカメムシは突如団体でやってくる。朝顔がなんかしおれているな、と思って水をかけてみたらこいつらがうようよ出てきた。とりあえず、キンチョールで退治したのだが、翌日にはまたいくつかついてる。

カメムシにはオルトラン(アセフェート)の効果が薄いようで、どうやらネオニコチノイドという化学物質が有効らしい。キンチョールのようなピレスロイド系、スミチオンのようなフェニトロチン系の薬剤は即効性はあるものの、駆除したさきから次々と飛来されるんじゃきりがない。そこいくとネオニコチノイドは植物体内にしぱらく残留するので良さそうだ。

ネオニコチノイドといえばミツバチの大量死の原因になった物質で悪名高いが、広域に撒くわけではないのでそこは目をつぶる。ネオニコチノイド以外にこいつらを退治できる有効な薬あるのかな。

「ベニカ水溶剤」や「ベニカベジフルスプレー」っていうクロチアニジン成分の商品がおすすめと書いてあったが、以前買った「ベニカXファインスプレー」っていうのにもクロチアニジンが入ってる。でも、この商品の説明にはカメムシが対象になってない。化学物質に違いはないだろうから、今朝、ベニカXファインスプレーを朝顔や唐辛子にかけておいた。 

午後に確認してみたら、まわりに死骸がころがっていたので効果はあったみたい。でもまだ生きているのがいる。新しくやって来たやつかな。茎に吸い付いたら死ぬのかもしれない。しばらく様子見だ。



Geisha distinctissima aobahagoromo j.JPG
Geisha distinctissima aobahagoromo.JPG
ちなみに、いろいろ調べていたら、よくバラやサザンカなんかについている白い綿状の虫、あれ、アブラムシの一種かと思っていたらカメムシの仲間なんだって。そんで、変な形の白い蛾と思っていたのはその成虫。アオバハゴロモっていうものだそうで、こいつらにもネオニコチノイドが効くそうだ。(アオバハゴロモの写真はWikipediaより)

7/04/2016

馬込の凶暴なやぶ蚊との戦い

ウチはやぶ蚊の産地?


夏場、ウチにはやぶ蚊が多い。凶暴で、しかも数が尋常じゃない。ちょっと外に出ただけで、ぶわーっと寄ってきてあっという間に血を吸われる。貧血になるくらいだ。

そもそも、ウチの裏は江戸時代からの墓地だ。まだ馬込一帯が農地だった頃、地元の有力一族だった家が畑の一角につくった墓地で、今でもゆかりの方がお墓参りにみえる。墓地といえば花入れや水入れはつきもの。そこに梅雨に水がたまればボウフラの格好の孵卵器となる。

馬込はもともと湧水のたくさんある土地だった。四、五十年前、このあたりの畑のわきにはどこも水が流れていて、ザリガニやらヤゴやら、いろんな生物がいたものだ。しかし、そういう場所にはボウフラの天敵もうじゃうじゃいるので、そんなに蚊は発生しない。しかし、裏の墓のちょっとした水たまりはボウフラ天国で、たっぷり栄養をとって立派に凶暴なやぶ蚊となる。

そんなわけで、ウチにやぶ蚊が多いのはもう昔からなので、これは避けがたいこと、せいぜい外で蚊取り線香でも炊くしかないぐらいに思ってた。


昔よりやぶ蚊多くねぇか?


でも、ちょっと多すぎないか、やぶ蚊? 子どものころ、いくらなんでもこんなに刺されまくってたっけ? と、去年ふと疑問に思った。確か、夏でも庭に出てよく遊んでたし、その当時、蚊よけスプレーとかなくても大丈夫だったぞ。

よくよく観察してみると、裏の墓の水たまりは夏の間カラッカラに乾いている。近所の樋が詰まってるのか? いや、それもカラッカラだ。まわりに水たまりらしきものがない。

いや、あった! 道路の排水舛だ。いつでも水がたまってる。そういえば、下水管が整備される前、このあたりに側溝、つまりドブはあったが水がたまっていることはなかった。なるほど、こいつが発生源だったわけだ。こういうところにはトンボが入れないからヤゴはいないし、当然魚もいない。ボウフラ天国じゃないか。


殲滅作戦を考える


出てきた蚊を退治するのはきりがない。やつらの生息範囲すべてにキンチョールを撒くわけにはいかないし、おそらくはエアゾールが届かない。とにかくボウフラのうちにやっつけるのが有効なので、そういう殺虫剤を調べてみた。

ありました。「デミリン発泡錠」。こいつは昆虫が幼虫の頃、脱皮して成長するのを阻害する薬で、しかも鳥、動物、魚にはほぼ無毒だという。昆虫とか脱皮するやつらにしか効かないので、鳥が薬剤入の水を飲んでも中毒になってしまうということがないからそこら中の水たまりにも撒ける。流れのないところでは1ヶ月以上効き目があるらしい。

これはいい! すぐさま購入だ! ちょっとお高い。いや、高くない! 人類の敵を殲滅できるのだ!

一点だけ疑念がある。記載されている害虫がチョウバエとユスリカだけだ。やぶ蚊が対象になってない。いやいや、やぶ蚊だって脱皮するでしょ。迷うよりは実践だ。


作戦実行


さてこの錠剤、一箇所にだけ使っても意味が無い。発生源となっている一帯で撒かなくては。果たして、やぶ蚊はどのくらいの距離を移動してきてウチの茂みに潜んでいるんだろう。とりあえず、ウチのブロックを取り囲む道路にある排水桝に錠剤を投げ込んでおいてみよう。

ほんの1ブロックといっても、ぐるっとまわると結構ある。排水桝は道の両側にあるんで、20箇所以上に1錠ずつ放り込んでみた。これが4月下旬。毎年、だいたいゴールデンウィーク明けくらいが蚊のシーズンのはじまりだからだ。

戦果は...


なんと、驚くほどの成果! 毎年あれほどうようよといて、集団で人を襲ってきたやぶ蚊がほんの少ししかいない。今年、たまたま出現するのが遅いのではないかとも思ったが、7月上旬の今でも明らかに少ないのだ。もちろん、梅雨にも入ったので近くの排水桝には何回か、そして梅雨の晴れ間にまた1ブロックをぐるっとまわって錠剤を入れてまわった結果である。

やぶ蚊に勝利した! ついに圧倒的な数で住民を脅かしていた、あの凶暴なやぶ蚊に勝ったんだ!

正直これほどまでに効果があるとは思わなかった。すごいぞデミリン。愛おしくなってきたので「デミりん」と呼びかけたいくらいだ。そのまんまだ。

これはぜひ町会で馬込中の排水桝に撒いてほしい。そう、1ヶ月に1回でいい、火の用心の見回り(なんかこのあたりは夏でもやってる)の時に、デミリン持ってあるいて排水桝に投げ入れていけば、馬込からやぶ蚊を殲滅できる気がする。


ちなみに、ボウフラを漢字で書くと孑孒

もうひとつちなみに、こいつ→は若干たよりないぞ。

7/01/2016

大森のMEGAドンキに行ってみた

1962年からそこにずっとあったダイシン百貨店が5月に閉店し、しかも6月下旬からはドン・キホーテになるというニュースは、大森地区の住民にとしては「Wの悲劇」に思えた。古くからの住民にとってダイシンでの買い物は日常であったし、その品揃えが食卓のメニューのベースでもあった。特に私とダイシンは同い年、ほぼダイシンの食材で身体ができているといっていい。

そのダイシン、バブル後に複数店舗化してからは食品以外の売り場がみるみる活気がなくなっていた。そして建築業界出身の社長に交代してから店舗をいっきに縮小し、なんとか下町百貨店として回復、2012年には建物をリニューアルした。メディアにもどんどん露出してたが、実際には2階、3階の売り場はいつもガラガラで、店員は「接客以外に重要な仕事があるのか」ってくらいに客を無視しているような状態、これはひどいなぁという感じだった。近くにオオゼキやらまいばすけっとやらがオープンして、唯一、人が入っていた食品売場の売り上げも落ちて行き詰ったらしい。

「悲劇」である。

そして、いつのまにやらドンキが経営権を握り、ついにかの閑静な大森の地に驚安の殿堂の看板が登場するに至った。ドンキといえばヤンキー。どちらかというと大森でも線路の向こう側のイメージである。

「Wの悲劇」である

これはいったいどんなことになるのだろう。ドンキが出店するも客層が違って業績振るわず、すぐさま撤退なんてことも考えられる。それじゃますます困る。駅前の京成/ヨーカ堂の跡地ビルのようなことになったら、大森がますますすさむ。

そんな心配な日々を経て、昨日大森山王のMEGAドン・キホーテがオープンとなった。

Twitterとかの評判は...、うーん悪くない。「食品売り場はほぼダイシン」とまで言っている人もいる。どうなんだろう。気になるのでさっそく今日出かけてみた。

ジャーマン通りを右にまがって、大森駅方面からダイシンに向かう。渋滞はしてない。でた、下品な黄色の文字の看板。駐車場は...、お、きれいになってる。ハトのフンもない。4階に停めてまずは2階に行った。

おおぉぉ、これは完全にドンキだ! ダイシンの頃は全体が見渡せたフロアが窮屈に商品が棚に積み上げられて目の前しか見えない。かつての書籍コーナーは文房具売場。この物量! 種類! 売る気がみなぎっている。奥には仏壇コーナーも。以前よりコンパクトになったが、やる気を感じる。見本の線香をただでくれた。

DoItもコンパクトに、店員の目がいきとどくように物が配置されている。次に衣料品。こ、これは、龍の柄のシャツ、誰が買うんだ? 見事にヤンキーのセンスのものが並んでいる。老人用のものが見当たらないし、買いたくなるデザインのものがない。ただ、売る気だけは感じる。店員も元気で、かつてのやる気が微塵も感じられない、ただ商品が並べてあるだけのダイシンからはかけ離れたエネルギーを感じる。

いや、昭和のダイシンは田舎臭さまんてんであったが、こういうエネルギーはあったなぁと、どこか懐かしさも感じたりした。田舎臭さがヤンキー臭さになって戻ってきたっていう感じだ。

今日のところは偵察なんで、2階はこのくらいにして何も買わず1階に。

エスカレーター下は、閉店前と同じく果物・野菜売り場。そして肉、魚と続くところは確かにほぼダイシン。だが、やや品揃えが違う。肉はメガ盛りが目立つ売り方をしている。あれ? 赤身の豚ひきがない。油揚げの「味わい亭」がない。十穀米がない。ちょっと戸惑ったがけっこう安くていいかも。うわー、お菓子の充実がはんぱない。酒コーナーもやる気出してる。

ひととおり店内をめぐって食料品を購入して思った。「小売とはこういうもんだ!」まぁオープン2日目ということもあるだろうが、店内は商品を売るぞという気迫に満ちていた。考えてみればダイシンを倒産から救った前の社長は建築家だ。それに比べてドンキは不況時代に成功を重ねてきた小売のプロである。もう、あきらかに売り場づくりのノウハウが違う。総合的にみると、なかなかいい進化を遂げたのではないだろうか。受け取ったレシートには(株)ダイシン百貨店と出てる。昭和のダイシンのパワーが戻ったんじゃないの。

ちょっと見なおしたぞ、ドンキ!

いや、ただね、あの看板と売ってる服のセンスはどうかと思うよ。


6/22/2016

「プレートテクトニクスの拒絶と受容」を読んだ

プレートテクトニクス、あるいは大陸移動説、マントル対流といった用語は、1982年に大学入学した私などの世代にとっても、地球科学の基本的概念としてよく知られた言葉だ。小学生高学年のころに大流行した小松左京の「日本沈没」のおかげで、東大地球物理学教授の竹内均の名前とともに世間一般に知られるようになり、私たちが大学で地球科学を学びたいと思うきっかけにもなったものだ。

ところが当の大学の地質学教室では、「プレートテクトニクスはまだ確定した理論ではない」として、古い「地向斜造山論」が80年代半ばまでまかり通っていたというのだ。世界の地球科学の学者間で、プレートテクトニクス理論がスムーズに受け入れられたのとは対照的に、日本でのパラダイムシフトが遅れた原因として「地団研」の存在があったと、泊次郎「プレートテクトニクスの拒絶と受容」は指摘している。私はこの本を読んで、当時の地質学をめぐる環境についてどれだけ無知であったかを知り、また、科学者が合理性から逸脱して血迷ってしまう要因についても考えさせられた。

地団研:地学団体研究会とは、学会であり活動体でもある。目指したのは「科学の民主化」であり、「民主化」とは「レーニン・マルクス主義、あるいはスターリン主義」に基づく、プロレタリアに牛耳られた研究組織からの開放であり、強力なリーダーの統率による団体研究の達成である。この団体の活動には功罪があり、研究費予算の配分、日本列島の効率的な地質研究、学校教育における地学の普及などに成果をあげた反面、地質学研究に関して鎖国的な対応とこの著者の言うところの歴史法則主義への固執という負の側面があった。

プレートテクトニクスの概念が誕生する前、海底の堆積物がアルプスやヒマラヤのような高所にまで押し上げられる原動力は謎であった。そこで提唱されていたのが「地向斜モデル」と「地球収縮説」だ。大陸のヘリにくぼみができ十分な堆積物が溜まる。ある時期に地球が冷えて収縮すると、地球表面にはシワがよって堆積物が山となって盛り上がる、という説である。現代の地球科学において(これは私が学生だった1982年頃でさえすでにそうであったはずだが)、「現在地球で起きていることは過去にも起きていたことであり、過去に起きたことは現在も引続き起こることである」という考え方が基本スタンスになっている。ところが、「歴史法則主義」はそのように考えない。地球は歴史を積んで現在に至っているのであり、事象は「始まりがあり、継続期間があり、そして終息する」というスタンスをとる。歴史法則的観点から解釈すれば、堆積物は長い期間地向斜が沈降しながら厚みを増やし、地球規模で造山活動が始まると隆起し、やがてその活動が終わると侵食されていくというサイクルを想定した。地団研では日本列島の地史を組み立てるにあたって、地向斜は花崗岩の浮力により独自に隆起するというモデルを用いてはいたが、「アルプス造山運動」という用語もしばしば見受けられ、地球規模の造山活動という観点は捨てられなかったようだ。そして現在見られる高い山は、古生代や中生代に起きた過去の造山運動の遺物であると考えるのだ。

確かに高校までの教科書にはこのようなことが書いてあったような気がする。そして、火山についても「活火山」「休火山」「死火山」というような区別をしていた。これも始まりがあり、継続期間があり、終りがある、という歴史法則的な見方と言える。

実際にはそうじゃない。高い山は現在も隆起しているから高い。火山として形をなしているものは現在も活動中だ。その現実を見事に説明できたのがプレートテクトニクスのモデルであり、1960年代の半ばには世界中で受け入れられ始め、そのモデルに基いてさまざまな検証がなされてきた。驚くべきはこの新しいパラダイムに対する地団研のとってきた態度だ。なんと1980年代も半ばとなるまで、かたくなに独自に発展した地向斜造山論に固執し続けたのだ。

私が高校生のころに読んだ「野尻湖の発掘」「化石」「日本列島」などの著者、井尻正二や湊正雄、大学受験の地学の参考書の著者、牛来正夫は、いずれも地団研の大御所だ。特に牛来先生は東京教育大学の岩石学の教授だった。東教大が筑波移転となる際、牛来先生は移転を拒んだらしい。もっとも東教大の筑波移転は、左翼にとって当局による不当国家権力行使だったので拒むのも無理からぬことだが、そのおかげで私は地団研と系統の異なる、東大系統の岩石学の教育を受けることとなった。牛来先生は初源マグマの結晶分化モデルにも疑問を持っておられたようだし、その後「地球膨張説」など唱えていたそうで、それを思うと私は学問的に幸いだった。

しかし、何が科学者の目をここまで曇らせるのだろう。プレートテクトニクス以前、地向斜造山論はきわめて論理的に説得力のある説であり、それに基いて日本の地質や地史を読み解くは先端であり合理的だったのは間違いない。しかし、一旦それで体系が仕上がってしまうと、新しいもっと合理的なパラダイムが登場した際に破棄できなくなってしまうのは純粋に心情的な側面に見える。そしてその心情的な部分を後押しするのが「思想」なのだろう。地団研の場合、マルクス・レーニン主義、あるいはスターリン主義がそれだ。(やがてその左翼思想もソ連の崩壊とともに瓦解することになるが。) 自然科学は合理性を求めるものだが、人間はなかなかそうはいかない。左翼思想も戦後においては先端思想であり、東京でも革新都知事の時代があった。人の生き方に直結する分、若いころに染まった思想はなかなか捨てられない。これが老害だ。組織は人が作るもの。組織が育つにつれて古い人は権威となり、そして組織は老害によって合理性を失って行く。自然科学といえども研究をする主体が人間であるかぎり、その人間性の束縛から逃れられないということだ。

ところで、私が地球科学を学びたいと思ったきっかけになったのは「日本沈没」だけではない。それよりももっと前に父が与えてくれた一冊の絵本、バートンの「せいめいのれきし」との出会いが大きい。宇宙、太陽系、地球の誕生から、様々な生きものが地球上に現れては消え、そして人類の時代になり、自分の祖先から現在の「私」の生活に至る壮大な物語だ。1962年に初版となるこの絵本、実は地球収縮説で山のでき方が説明されていた。私の生まれた年だ。いしいももこの訳で日本で出版されたのが1964年。この時点でプレートテクトニクスはようやく有力なモデルとして一部の注目を集めるようになった。そして10年そこそこのうちに小松左京が日本沈没を書くことになる。急激なパラダイム・シフトだったわけだ。それと同時期に、日本の地質学者は地向斜造山論に基いく日本の地史の集大成を作り上げていたのだと思うと、人間のいとなみの虚しさすら感じる。

ちなみに、昨年、「せいめいのれきし」は最新の地球科学の学説を(ようやく)取り入れて改訂版が出版された。原著はとっくのむかしに(おそらく1990年代に)改訂されてたので、こんなところでも日本はプレートテクトニクスの受容が遅れてしまってた。ようやくの改訂がうれしくて、親戚や知り合いの子供に贈った。この本をきっかけに、地球科学に興味をいだいてくれると嬉しいな。

1/28/2016

El Capitanにしたらログイン後に面倒なことを言われる

たいていOSをアップデートすると動かなくなるアプリやらドライバーやらが出てきて面倒なものだが、メインのMac Pro をYosemiteからEl Capitanにしたら、やっぱりログインのたびに変なアラートが出るようになった。

最初は「SXUPTP.kextが古くて互換性がない」っていうメッセージ。「どうしなさい」という指示を出さないので自分でなんとかするしかない。

/System/Library/Extension の中に当該ファイルは発見したが、これがなんのドライバーなのかわからない。ググってみたら出所情報がズバリ書かれてはいなかったが、どうやらsilexのUSBをネットシェアするアダプターのドライバーらしいことが分かった。silexのサイト見たらまだ対応してないらしいので、単純にゴミ箱に入れた。

もうひとつがこれ。「"CS4ServiceManager"を開くには」って言われても、もともと開くつもりはないっつーの。まぁ、CS4というのはAdobeのやつだなというのは察しがついたが、今まではこんなものがバックで自動で動いてたのか。もはやCreative Cloudの時代にCS4は2世代前のものなので、ぜひとも退治しておきたいと思うのだが、こいつどこにいるの?

調べてみたら、/Library/LaunchAgents の中に"com.adobe.CS4ServiceManager.plist"っていうのがあって、こいつがCS4ServiceManagerを起動させようとしているということがわかった。まずはこのファイルをゴミ箱へ。そして、CS4ServiceManager本体は、/Library/Application Support/Adobe の中にあるのがこのplistの記述でわかったので、そのフォルダーを探ってみたら、なんだかAdobeの歴代のソフトの残骸がたくさんあった。

どうしていいかわからなかったけど、とりあえず"CS4ServiceManager"フォルダーはまるごとゴミ箱に入れた。他のものには手をつけなかったけど、使いもしないアプリがバックグラウンドで動いていたら嫌だな。でもそれを探りだすのもまた面倒。

とにかくこれで、一応面倒なことを言ってくるものの退治は終わり。

ところで、OS Xには"Library"というディレクトリーが3箇所にあって紛らわしい。

/Library
/System/Library
/User/{user name}/Library

そして、Finderでの検索範囲を「このMac」のままにしていると、Library配下のファイルは見つけてこないみたいだ。

1/24/2016

「ふじ」って何だ??

法要関係の話でもうひとつ。義父の先祖代々のお墓があるのは三重県で、菩提寺になる浄土宗の寺で法要をする際にお布施などを用意してたのだが、親戚の家で「ふじ」なるものを初めて聞いた。法要に出る人たちが100円くらいずつ出して、紙に「ふじ」とかなで書いたあとに名前をつらねて住職に提出するものだそうだ。お経のときにその名前を読み上げていた。

しかし「ふじ」なんて初めて聞いた。同じ寺でやった法要でも以前には記憶がない。「諷誦」と書くらしい。これまでこういう風習は聞いたことがなかったのでかなり戸惑った。施餓鬼供養と関連するものらしいが、それで坊さんの歌の中に施餓鬼供養のお経や呪文が入ってたのか。

親戚の家では「坊さんに布施をあまり多く渡すと、お経が長くなるのでかなわんぞ」と言ってたけど、今回「ふじ」の分だけ明らかに長くなってたように思う。


1/18/2016

浄土宗の法要で坊さんが歌う歌

いろんな法事に出席してお経を聞くけれど、お経が読み進められるなかで坊さんが突然歌い出してびっくりすることがある。妻の父方が浄土宗なんだが、そこの法事でも毎度坊さんが歌う。こういうのって、楽譜があったりレコードがあったりするするわけではなさそうで、ネットで調べても全貌がわからない。口伝による歌詞や節回しなのだろうか。せっかくだから録音記録してYouTubeに公開してみた。すると、ぼちぼちとアクセスが増えている。気になっている人はいるんだな。

録音の聞き取りをしながらネットで調べて、歌詞もほぼわかった。和讃とお経が入り混じったもので、途中、施餓鬼の呪文みたいなものまで入ってる。註釈をつけて以下に記しておくので、試聴の参考にしてほしい。興味あればの話だけど。


今なお尽きぬ母の恩
在りしあの日の面影を
胸にいだきて手を合わせ
心をこめて手向けなん

南無阿弥陀仏の阿弥陀仏
【「光明摂取和讃」として違うメロディで歌われる場合がある】
人のこの世は長くして
変わらぬ春と思いしに
無常の風は隔て無く
儚き夢となりにけり 
弔うところの精霊は○○○○○○○○ 【故人の法名が入るので、録音ではカットしてある。】
追善増上菩提
南無阿弥陀仏 阿弥陀仏 
【ここでいきなり施餓鬼関連のお経が入ってくる。
甘露門というらしい】
若人欲了知
三世一切仏
応観法界性
一切唯心造 
南無常住十方仏
南無常住十方法
南無常住十方僧
南無本師.... 【「南無本師釈迦牟尼仏」というのが一般的だがそう聞こえない】
南無大悲観世音菩薩
南無啓教阿難陀尊者 
神咒加持浄飲食 布施恒沙衆鬼神
願皆飽満捨慳心 速脱幽冥生善道
帰依三宝発菩提 究竟得成無上覚
功徳無邊盡未来 一切衆生同法食 
曩莫 薩嚩 怛佗蘗多 嚩嚕吉帝 唵三婆羅 三婆羅吽
(のうまく さらば たたーぎゃーたー ばろきてい おんさんぱら さんぱらうん)
【3回繰り返し。食物が無限に生じる呪文】 
【ここも「光明摂取和讃」】
熱き涙の真心を
御霊の前に捧げつつ
在りしあの日の思い出に
面影偲ぶも悲しけれ 
海より深き母の愛
情けをうけて人の世に
別れは一度と知りながら
面影偲びて廻向せん 
【「霊まつり和讃」に似た部分がある】
本日にここに.... 【聞き取り不能。】
父と母とに手を合わせ
七世の父母の恩徳を
念仏唱えて感謝する 
これぞ真の孝の道
南無阿弥陀仏の阿弥陀仏 

【「開経偈」と呼ばれる偈文】
念念思聞浄土教
文文句句誓当勤
憶想長時流浪苦
専心聴法入真門


ちなみに、ウチは真宗高田派。

1/13/2016

浅草のお座敷で芸者あそびを体験した

お座敷の宴会で芸者を呼ぶなんてことは、庶民にはまったく縁がなくて、むしろ外国人観光客の方がそういうツアーがあったりするんじゃないかと思ってたが、友人が浅草の企画屋さんのチラシを見つけてきて、ひとり2万円で経験できるとのこと。すぐさま妻と二人、10人定員のその催しに応募した。もちろん、誘ってくれた友人夫婦もいっしょ。

2015年12月11日、11名が集まって、浅草割烹福八に向かった。半分以上、女性。4人の芸者さんがお酌をしてくれて、わりと普通な感じで宴会が始まった。

江戸〜明治のお座敷の雰囲気を再現してみようという趣向で、途中からは部屋の電気を全部消してろうそくの灯だけにする。... むむ、料理もなにも見えない。おちょこにお酒をついでもらっても、こぼしそう。昔はこんなに暗かったのか?? いや、ろうそくの位置が低すぎるんだろう。昔の料理はひとりひとりのお膳に出てたんだろうし、ろうそくのほの暗さでも上から照らされれば手元は見えるはず。

ろうそくの光でみると、芸者さんの白塗りが美しい。蛍光灯のもとでは、ただひたすらに白い顔なのが、ろうそくの温かみのあるほの暗さの中では最高に映えて艶っぽい。



お酒がすすんだところで、金屏風の前での唄と踊りを楽しむ。昭和の前半くらいまでの旦那衆は、労働者がうるさい居酒屋で焼酎あおっている間にこういう楽しみ方をしてたんだな。庶民がくだ巻いてそこらにくたばっているころには、ほろ酔いで吉原か。優雅なもんだ。

唄と踊りは4つの江戸端唄。「並木駒形」「辰巳よいとこ」「浅草名物」「騒ぎ」。踊りもよかったけど、紫沙さんの唄と三味線に圧倒されてしまった。... うまい ... かっこいい! その名演をYouTubeで2曲お届けします。



ひとりだけ白塗りしてなかった地方の紫沙さん(下の写真 左)。あとでネットで調べてみたら、この紫沙さん、なんと芸大卒。なんだかいろんな肩書きももっている凄腕アーティストで、すっかり魅了されました。




歌と踊りを堪能したあとは、芸者さんとお遊び。「こんぴらふねふね」にあわせて、托子を取り合い、負けたほうが一杯飲む。友人は2秒で負けてたな。芸者さんは熟練してるんで、単純なゲームでありながら全く勝てない。

そのあとは、新婚夫婦がいちゃいちゃする小芝居「新所帯」。これを夫婦でやらされる。男だけの宴会だと妻役を芸者さんがやるんだろうけど。なんだか、型にはまったものなんだけど、たまらなく楽しい。

新所帯
馴れぬ竈に生薪くべて
『煙いなぁ』
『だって燃えないんですもの』
叱らず教えて アラ 頂戴な
ほんにまた あなたは罪な人



なんやかや、酔って大笑いして盛り上がって、あっという間に2時間。おひらきとなりました。裕福な商家の旦那になりたいなぁ。

4/27/2015

それでもまだ プロ向けビデオフォーマット 2.0.1.0 をインストールしろと言う

Appleのサポートが回答した対処法を試しても効果がない場合、Pacifistというシェアウェアを使用するしかなさそうだ。20ドルするが無料で「お試し」もできるので、支払いはこのツールで解決できてからでもいい。


まずはとにかく試してみる。手順は次の通り。


  1. Pacifist.appをダウンロードしてアプリケーション・フォルダーにインストールする。
  2. Appleからビデオ・コーデック2.0.1(ProVideoFormats.dmg)をダウンロードする。
  3. ダウンロードしたファイル:ProVideoFormats.dmgをマウントする。
  4. Pacifistを起動してパッケージ・ファイル(ProVideoFormats.pkg)を読み込む。
  5. 表示されるリストから、トップの項目:"Contents of ProVideoFormats.pkg"をクリックして選択し、左上の「Install」ボタンをクリックする。
  6. 「Install entire contents of "ProVideoFormats.pkg"?」と表示されたら「Install」ボタンをクリックする。(パスワード入力が必要) 上書きはすべて許可する。
  7. インストールが終了したら、Pacifistを閉じてディスク・ユーティリティを立ち上げ、起動ディスクのアクセス権の修復を行う。
  8. 再起動する。

Appleのサポートの手順の問題点は、このアップデートのインストール先のうち/Library/QuickTime/というフォルダーしか対処していないことらしい。アップデートのファイルは、それ以外の場所、たとえば/Library/Application Support/ などにも書き込みを行おうとするようで、そこがエラーになっているとアップデートのやり直しをしようとする。さらに、ファイルのアクセス権もおかしいみたいだ。

コーデックのアップデートについては、前回も同じような問題が発生していたようで、このあたりのQAがいいかげんなようだ。


2015/5/1 追記
情報によれば、どうやらAppleが手直ししたインストーラーをリリースしたようだ。ただし、アップデートの表示上は全く同じなので、見かけ上またアップデートが繰り返したように見える。本当に手直しされているのかは、しばらくしてみないと判断できない。

4/26/2015

プロ向けビデオフォーマット 2.0.1.0 が繰り返しインストールされる

2015年4月にリリースされた、OS Xのビデオ・コーデックのアップデート「プロ向けビデオフォーマット 2.0.1.0 」が、Yosemite (10.10.3)に何度インストールしても繰り返しMac App Storeのアップデートに現れる。インストール済みが並ぶばかりで、きりがない。


調べたところ、【ここ】に同じ症状の対処方法が書かれていた。2通りの解決方法が示されているが、Appleのサポートへの問い合わせに対するオフィシャルな解決方法が次のとおり。


  1. デスクトップなど、任意の場所に新規フォルダーを作成し、/Library/QuickTime/ (日本語表示の場合/ライブラリ/QuickTime/) 以下に含まれるすべてのファイルをそこに移動退避させる。(QuickTimeフォルダーを開いてから編集メニューで「すべてを選択」、移動は⌘キーを押しながらドラッグ・アンド・ドロップ。)パスワードの入力が必要。
  2. App Storeのアップデートで、アップデートを実施する。
  3. アップデートが完了したらシステムを再起動する。
  4. 再び/Library/QuickTime/フォルダーを開くと、新たなファイルがインストールされているので、退避させておいたフォルダーから、重複しないもの(Flip4Macなど、過去にインストールしたものによって1〜2ファイルから数ファイル)を戻し入れてやる。

この作業後、しつこいアップデートはされなくなる。

この方法でまだ解決しない場合、Pacifistというシェアウェアを使ってインストールするやり方があるので、次のエントリーに記述する。


4/09/2015

消えない請求画面の駆除

Windowsユーザーが罠にかかると、消しても消しても表示されるこういうヤツ:


駆除を頼まれたのでなんとかやっつけた。(Windowsってほんと難しい。みんなMacにすればいいのに。) 予想より手強かった上にネット上の情報もまとまっているものがなかなか見つからなかったので、一応記録しておくことにする。

手順はおおまかに次の通り。

  1. 現在動作しているタスクを殺す
  2. msconfig.exeでスタートアップの設定を消す
  3. タスク・スケジューラーの設定を消す
  4. regedit.exeでレジストリーの怪しいエントリーを検索して消す
  5. リブート

最初に、事の顛末を長々と書く。書きたいのだからしょうがない。駆除の実際の作業は最後にまとめておくので、一刻も早く駆除情報として参照したい方はダイレクトにそちらを読んでもらいたい。


被災状況

「変な脅迫的な請求画面が出て、消そうとすると登録完了したから8万5千円払えと表示される。画面を閉じても再起動しても、同じ請求画面が出る。なんとかならないか?」という助けを求める声に応じ、実際のパソコンを診てみることにした。

OSはWindows 7、立ち上げるといきなり右下に標準的なウィンドウの枠のない登録料請求の画面が表示される。右上の「閉じる」ボタンをクリックするとInternetExplorerが開き、「アダルトスカイ 登録完了」と表示される。そのときのURLが「***.itponagt.me/*******」というようなものだった。この画面を閉じようとすると「移動を許可するか」とかなんとか、いろいろわけわからんことが書いてあるアラートが表示される。許可するとブラウザーは閉じることができるが、しぱらくたつとまた最初の請求画面が表示される。


最初の分析

これは何か常駐型のマルウェアがスタートアップに仕組まれたに違いないと思って、タスク・マネージャーを起動して動作しているプログラムを調べたが不審なものがない。そもそもアンチウィルス・ソフトが入っているので、そいつがなんのアラートも出さなかったのも不思議な点。

そのうちに、また例の請求画面が立ち上がるとMS-IE、つまりInternetExplorerが起動されたことがタスク・マネージャーの画面をみててわかった。あの、標準ウィンドウの枠がないポップアップの正体はInternetExplorerだったのか!

最初、「マルウェアの実体はInternetExplorerで、不正請求画面を表示するファイルを読み込ませて立ち上げる設定がスタートアップに仕組まれている」と推理した。


ググって調査

Windows 7 のスタートアップがどう設定されるのがもよく知らないので、この推理のもと、グーグルで色々と調べてみた。すると、このマルウェアはWindowsの正規プログラムであるmshta.exeを悪用するタイプのものであること、読み込まれるのは.htaという拡張子のファイルであること、.htaはJScriptを含むウェブ・アプリケーションのファイルであることなどがわかった。

なるほど、Windowsの正規プログラムだからアンチウィルス・ソフトで検知できないわけか。

また、スタートアップの設定を見るにはmsconfig.exeを起動すればよいというのもわかった。

一方、このマルウェアへの対処方法として「感染前の復元ポイントに状態を戻す」ことを推奨する記述が多い。しかし、それだとマルウェアの正体を見ることなく、しかも復元ポイント以降、ある程度のデータの犠牲を覚悟しなくてはならない。その対処方法はいただけない!

ただし、正面からこのマルウェアに対峙する場合、レジストリーをいじることにはなりそうだ。


msconfig.exeでアタック

msconfig.exeを起動する。スタートアップのタブをクリックして内容をチェックすると、いた! mshta.exeにhttp://xxx.itponagt.me/****を読み込ませる設定がふたつ。まずは単純にこれを無効にして再起動してみる。すると、まだ請求画面が表示される。msconfig.exeで確認すると、消した設定が戻っている。戻っているというより、無効にした設定とは別に再度同じ設定が追加されている。msconfig.exeだけで駆除するのは無理だ。


レジストリーを調べてみる

さらにregedit.exeを起動してレジストリーの HKEY_CURRENT_USER\Software\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Run と HKEY_LOCAL_MACHINE\Software\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Run を覗いてみると........
いたいた! 例のmshta.exeの設定。

msconfig.exeで設定を無効にした上で、このレジストリーのエントリーを削除して再起動してみた。すると請求画面が表示されない!

やった、これで駆除完了。と思いきや、しばらくたつと請求画面がまたまた登場。で、msconfig.exeで確認すると...  もとに戻ってる! レジストリーも...  やっぱりまた消したはずのエントリーがある!

これはどうやらレジストリーに書き戻すプログラムが動いているらしい。


タスク・スケジューラーでアタック

またグーグルで調べてみると、タスク・スケジューラーに怪しいエントリーがあるかもしれないとのこと。かなり詳しいことがトレンド・マイクロのブログに掲載されていた。早速コントロール・パネルの管理ツールからタスク・スケジューラーを起動する。怪しいのは... SystemBootとRegWriteというふたつ。10分毎にレジストリーにmshta.exeの設定を書き込んでいるらしい。

早速、ブログの記述に従ってこれらを削除。msconfig.exeでスタートアップを無効にし、レジストリーから 〜\Run の中の該当エントリーを削除して、再起動。今度は?.....  まだ出る!さらに、タスク・スケジューラーにSystemBootとRegWriteが戻っている。なんと、トレンド・マイクロのブログの手順でもまだ駆除できない!


レジストリーを徹底調査

それでも何だかだんだんとわかってきた。設定を書き戻す仕組みはレジストリーのエントリーにあって、そのエントリーにはSystemBoot、Regwrite、mshta.exeが必ず記述されているに違いない。特に、SystemBootもRegWriteも引数にmshta.exeという文字列があるので、とにかくmshta.exeでレジストリーを検索して、怪しいエントリーを削除すればよさそうだ。


レジストリーに挑む

例によってMS-IEのタスクを殺し、msconfig.exeでmshta.exeのスタートアップを無効化。さらにタスク・スケジューラーでSystemBootとRegWriteをライブラリーから削除。

そしてregedit.exeで"SystemBoot"を検索すると HKEY_LOCAL_MACHINE\Software\Microsoft\Msconfig\StartupregにSystemBootとRegWriteのエントリーを発見。これらを削除。さらに"mshta.exe"で検索すると、 HKEY_CURRENT_USER\Software\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Run と HKEY_LOCAL_MACHINE\Software\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Runに加えて、他の数カ所にもmshta.exeにhttp://xxx.itponagt.me/****を読み込ませる設定を発見し、すべて削除。

ただし、引数にhttp://xxx.itponagt.me/****がないものは、もともとWindowsの正常な設定であると思われるので削除しないように気をつける。

さて、祈りながらリブート。...... よしっ、今度は出てこない。しばらくしても大丈夫。

ふー、駆除完了!




消えない請求画面駆除のまとめ

まず、ここに書くことはWindowsの骨組み、レジストリーをいじるので、ヘタすればWindowsが起動しなくなる。筆者は責任負えないので、そこはくれぐれも自己責任・要覚悟ということで。あと、筆者はWindows 7以外でこの手順が有効かどうかも知らない。たぶん、同じようなものだとは思う。

  1. 現在動作しているタスクを殺す
    Windowsを起動して請求のポップアップが表示された時点で動作しているのはMS-IE、つまりInternetExplorer。ctrl-alt-delキーでタスク・マネージャーを立ち上げて、当該プログラムを強制終了する。とりあえず、ポップアップは消える。

  2. msconfig.exeでスタートアップの設定を消す
    Windowsの起動時に請求のポップアップが表示されるのは、スタートアップにmshta.exeが設定されているから。この設定を無効化する。msconfig.exeを立ち上げて、スタートアップ・タブをクリックすると表示されるリストの中から、mshta.exeと記述されているもののチェックを外す。(mshta.exeには****.htaファイル、あるいはhttp://からはじまるURLが引数として渡されるようになっている。)

  3. タスク・スケジューラーの設定を消す
    スタートアップの設定を消しても、しばらくすると請求ポップアップが再び現れ、消した設定が元通りになってしまうのは、タスク・スケジュールにSystemBoot、RegWriteが設定されており、一定時間毎にスタートアップやレジストリの設定を修復してしまうから。コントロール・パネルの管理ツールからタスク・スケジューラーを立ち上げ、SystemBoot、RegWriteのエントリーをライブラリーから削除する。

  4. regedit.exeでレジストリーの怪しいエントリーを検索して消す
    タスク・スケジューラーのSystemBoot、RegWriteのエントリーを消しても、Windowsを再起動すると再び請求ポップアップが現れ、スタートアップもタスク・スケジュールも修復されてりまうのは、レジストリーにまだ設定が残っているから。なので、レジストリーの中を徹底的に潰す。regedit.exeを立ち上げ、まず"SystemBoot"で検索する。すると、HKEY_LOCAL_MACHINE\Software\Microsoft\Msconfig\StartupregにSystemBootとRegWriteのエントリーが見つかる。これらを削除。続いて"mshta.exe"で検索する。HKEY_CURRENT_USER\Software\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Runをはじめとして、〜\RunOnceなど、複数箇所に***.hta、あるいはURLを引数に持つmshta.exeの怪しいエントリーが引っかかる。これらを削除。ここで重要なこと。mshta.exeはWindowsの標準機能なので、「怪しくない」mshta.exe関連のエントリーも検索に引っかかる。怪しい引数を持たないものは削除してはいけない。怪しいか怪しくないかは、引数に使われている***.htaファイルやURLで判断できる。

  5. リブート
    すべてのプログラムを終了させて、Windowsを再起動する。
最後の最後に、このマルウェアを埋め込んだ犯人であるファイルも削除しておく。ダウンロード・フォルダーを開いて、MovieID*****.htaというファイルがあれば、おそらくそいつが犯人だ。以後、間違って起動しないように、当該ファイルをゴミ箱に入れる。

以上で駆除完了。


このマルウェアは巧妙で、登場以来、進化を続けているらしい。なので、ここに記述した手順だけで駆除できない場合もあるかもしれない。しかし、mshta.exeを使っているということがわかれば、レジストリー内に仕掛けられた設定を追って潰してくのは同じではないかと思う。

まぁ、そもそもmshta.exeなんてマルウェア転用できるツールを、MS自らが提供していること自体に驚く。mshta.exeの悪用がさらに進化して、個人情報を持って行かれたりすることはないんだろうか?

このようなアンチウィルス・ソフトが役に立たないマルウェアを、一般のWindowsユーザーが駆除するのは難しい。家の共有パソコンや、会社のパソコンでこの罠に引っかかったら目も当てられない。請求の内容が内容だけに人に相談できず、脅迫に負けて自ら個人情報を明かした上に支払いをしてしまうかもしれない。

サギ野郎に支払いをしてしまうくらいなら、8千円強をトレンド・マイクロに支払って「おまかせ!不正請求クリーンナップサービス」を受けるのが早そうだ。

9/27/2014

父の人生


9月25日、父、五郎が88歳で亡くなった。もう父から直接、話を聞くことはできなくなってしまった。同じ屋根の下に暮らしていたのだから、もっともっと話を聞く機会を持てば良かった、などと思い始めるときりがない。考え出すと涙が止まらない。

今までに聞いていたことなど、このブログに書きとどめておくのもいいかもしれない。葬儀が終わったら、ぼつぼつと整理してみよう。それもひとつの供養かもしれない。

7/21/2014

倉敷の少女誘拐監禁事件の謎

めでたく無事解決はしたものの、どうもスッキリしない。疑問点は以下のとおり:

  1. 母親が危険認識できるくらいにつきまとわれていた車に、女児がまわりに助けを求める間もなく乗せられてしまったのはなぜか。
  2. 母親がすでに番号を警察に通報していたなら、近隣のシルバーの車の所有者がリストアップされていてしかるべきで、GPSの反応が途切れる前の時点で先回りできていなかったのはなぜか。
  3. 相当数の捜査員を投入していながら、犯人宅の自動車のナンバープレートが登録と異なり、偽造されていたのを見破れなかったのはなぜか。
  4. ナンバープレートが付け替えられたのがどのタイミングだったのか。誘拐以前ならば、なぜ犯人は自分のナンバーが通報されているのがわかっていて、それでもその女児を執拗に狙ったのか。誘拐後に付け替えたのなら、どうしてそう簡単にニセのナンバープレートが入手できたのか。
警察は、事件前にいろいろな相談があった時点で、いったい何をやっていたのだろう。この事件、全体のストーリーがなんだかおかしい。

7/10/2014

顧客データの漏洩に関して

ベネッセから顧客データが大量に漏れたという。だが、ベネッセでは「ハッキングによるものではないし、社員も持ち出していない」と発表している。だいたい犯人の目星がついているような印象の発表だ。

おそらく、顧客データは日々刻々とレコードがアップデートしている。データベースへのレコードの書き込み履歴とアクセス履歴があれば、漏洩したデータとの照合で、だいたいいつ抜き取られたのか、誰がアクセスした時間帯なのかが絞り込めそうだ。

顧客データを外部に漏らすことが、どれほど割の合わないことなのかを知らしめるためにも、十分な証拠を整えた上で最終的に被疑者は晒すようにした方が良いのだと思う。


4/16/2014

古いノートPCにもう一度役割りを与える

TOSHIBA DynaBook SS 3440 という2000年に発売されたB5ノートPCが手元にある。5年ほど前にハードディスクを40GBにして、Damn Small Linuxをインストールしてみた。動作したが、使い勝手がよくないのでそのままになってたものを、次のように活用してみようと思う。


  • マルチ・パーティションにする
  • それぞれに軽量のLinuxを導入して試用してみる
  • 気に入ったものにmini vMacとSheepShaverを導入する
  • 過去のMac PlusとPowerMacの環境を再現する


問題は、3点ほど。

  • メモリーが192MBでこれ以上拡張できない
  • 光ドライブもフロッピーもなくUSBからの起動もできない
  • グラフィックがTridentというマイナーなもの


メモリーが192MBということで、インストールできるOSは限られてくる。Damn Small Linuxは開発がもう継続していないようなので、Tiny Core Linux、ArchLinux、Puppy Linuxを試すこととした。

すでにDan Small Linuxがインストールされているハードディスクにはパーティションがひとつしかない。現状、このノートPCはHDからしか立ち上がらない。とはいえ、いちいち内蔵HDを取り出したり戻したりするのは面倒だ。そこで、BIOSがUSB起動をサポートしてなくてもUSB起動を可能にしてしまう秀逸なブート・マネージャー:Plop Boot Manager をインストールすることにした。

現在のDamn Small LinuxはGrub Legacyで起動する設定なので、GrubからPlop Boot Managerのインストーラーを立ち上げてMBRを書き換え、見事、USBからの起動ができるようになった。

USBからは メモリー・スティックにインストールしたSystemRescueCDを起動して、GPartedで新たに3つのパーティションを切った。そしてまずはTiny Core Linuxを2つめのパーティションに導入しようとしたのだが、ここから、ブート・プロセスとの戦いが始まるのであった。


3/28/2014

さよなら ドナウ川のさざなみ

人生80年という時代、写真であれなんであれ過去の記録は「あの頃」を思い出すための大切な鍵になる。できれば自分が死ぬまではとっておきたい。そこにあっていつでも取り出せると思うだけで気休めでもある。

それが、何らかの災害とかにあわなくても、もう永遠に失われてしまうことがある。それが記録メディアの劣化だ。

小学生の頃、エレクトーンを習っていた。年に1度、ガスホールで発表会があって、ガチガチに緊張してステージで演奏した。その緊張のステージの様子、今ならビデオにでも撮るのだろうが当時は主催者が手配した業者により録音され、後日ひとりひとりの分がレコードで手渡された。もちろん有料。

下手な演奏でも、永遠の記録として留められたのだと思うとうれしかった。レコード・プレーヤーの時代がとっくに過ぎ去っても、いつでも聴けるものと思ってしまってあったのだが、今日、取り出してみたところこのザマだ。



いわゆるアセテート盤、あるいはラッカー盤っていうメディア。コーティングされたアルミの円盤の上に溝を彫り込んで録音するやつ。剥離してバラバラ。たぶんテープの方が長持ちだった。

さよなら、ドナウ川のさざなみ。


1/30/2014

MavericksでEPSON Scanが使えない


まず、2014年1月30日現在、EPSON Scan.appが使えない。新バージョンは出るのか否かも確認できてないが、とりあえずの回避方法を見つけた方がいらっしゃったので、助かった。

==> OSX 10.9 Mavericksでは起動しないEPSON Scanを使用する方法 - ソメログ




で、もうひとつ不具合。機能設定で「プリンターとスキャナー」を開こうとするとエラーが出て全く設定できない。これは、以前のプリンター設定を残したままMavericksにアップグレードすると発生するエラーのようで、これも解決策を見つけた方がいらっしゃる。

/etc/cups/printers.conf
/etc/cups/printers.conf.O
/Users/*username*/Library/Preferences/com.apple.systempreferences.plist
( *username*はログインしているユーザーネーム)

の3つのファイルを削除して、再起動の上、プリンターを再設定すれば復帰する。

==>OS X 10.9(Mavericks)で「プリンタとスキャナ」がエラーになる対応 - ちくちく日記


情報提供、感謝。


1/28/2014

Linotype の魅力 (4)

80年以上、約1世紀にわたって君臨してきたLinotypeの終焉もまたドラマチックだ。この終焉への過程とその後を知るほどに、Linotypeの歴史的面での魅力は増大する。

我が世誰ぞ常ならむ


1970年代の終盤、写真植字とオフセット印刷の進化が、Linotypeどころか活版印刷をまるごといっきに崖から突き落とす。

変化は急速であったが、写真植字もオフセット印刷も突然に現れたものではない。写真植字が開発されたのは1940年代だし、オフセット印刷技術はLinotypeより15年も前だ。1970年代の後半になるまで、どちらも活版印刷に比べてアドバンテージがなかったにすぎない。

写植による詰め打ち 斜体の例
写真植字は実に30年以上の時間をかけて進化し、電算処理と結びつくことでようやくLinotypeの生産性と品質を超える。写植により、各文字のマージンの取り方や表現には自由度が増した。オフセット印刷のための版下作成は、紙の切り貼り、熔けた鉛はいらない。あとはそれをフィルムにとって刷り用のアルミ版に焼き付ける。写真とほぼ同じ工程だ。品質やコスト・パフォーマンスも十分となり、熱くて重く、取り扱いのやっかいな鉛の活字の時代はあっという間に終わる。

一旦コスト・パフォーマンスで優位に立てば、もうLinotypeとその熟練オペレーターに行き場はない。Linotypeが登場した頃は安くて早い印刷物への需要が高まり、たくさんの雇用が創出された。今回はそれとは違う。印刷への需要の伸びは雇用の削減に及ばない。数年のうちにLinotypeは熟練オペレーターとともにスクラップとなってしまった。

浅き夢見じ


Linotype社の方は当然新しい技術を導入して生き残りを計る。1974年にはLinotron 505という写植機を市場投入している。ただクールに仕事をこなすためだけの、こじんまりとした人間味のない機械だ。これが動いている様子がYouTubeの動画で見られたとしても、何ひとつ面白く無い。以降、Linotype社が出すマシーンは、見て面白いものが無くなるが、ドラマは続く。

多くのLinotypeが破棄されてからまだ10年もたたない1984年、AppleのMacintoshが登場する。翌年、AppleはAdobeのPostScriptを搭載したLaserWriterを発表、同じ日にAldusが史上初のDTPソフト、PageMakerを送り出す。(この共に頭文字が"A"の3社のコラボレートも、時代の奇蹟としてドラマチックで、語り始めるときりがないが、この場はLinotypeの話。)

まだ天下をとって間もない写植機は、たった10年あまりのうちに、個人でも買えるこの小さなコンピューターに市場を脅かされることになる。Linotype社はMacintoshとAdobeのPostScript技術の将来性に気付き、1988年にPostScriptイメージセッターを市場投入する。イメージセッターは言わば高精細のパソコン用プリンターで、普通紙のかわりに印画紙やフィルムに出力する印刷のプロ用機材だ。

この時点で、活字は構成要素のデータのひとつとして、イメージと組み合わせてコンピューターで処理されて出力されるものになった。もはや金属に刻まれていたり、ネガ・フィルムに写されている物理的なメディアではなくなったわけだ。

Linotype社のイメージセッターはオフセット印刷のためのフィルム出力のスタンダードの地位を得るが、これも長くは続かない。やがてオフセット印刷はフィルムを必要としなくなる。コンピューターから直接、刷り用アルミ版を作る技術(CTP:Computer to Plate)が一般化し、イメージ・セッターの市場も10年ちょっとで無くなってしまうのだ。

レガシーは手のひらの中に


Linotypeの自動鋳造植字機が80年、写植機20年、イメージセッターが10年。近年の技術進歩の速さと雇用の縮小ぶりに驚く。LinotypeもMonotypeも今やフォント、つまりタイポグラフィーの提供会社としてひとつになった。そのフォントも、かつては数々の技術者の手によって届けられていたものが、現在はデザイナーとエンド・ユーザーが直結している。ハードウェアがすべてのアルゴリズムを処理していた時代から、ソフトウェアが中心の時代になった。

「活字離れ」なんてとんでもない。現代は活字の溢れる時代だ。「活字になる」という言葉があるように、つい20年ほど前まで活字は憧れの対象であり権威だった。Linotypeはそんな時代を象徴するマシンだ。Linotypeの有名なフォントHelveticaは、もはや「印刷」からも切り離され、ユーザーが手の中で日々の個人的コミュニケーションに使う道具のひとつである。



>Linotype の魅力 (1)
>Linotype の魅力 (2)
>Linotype の魅力 (3)